毎日毎日、ずっと待ちわびていた
そしてやっと、その日は訪れた。
二日前、何のことはない、私が待っていたのは雨だ。
二週間前に傘を買った。
お店に行って、一目惚れした上品な花柄の傘。
今まで使っていたのは千円前後だと言うのに、買った傘は5400円。
私にとっては、かなり高級な傘なのにもかかわらず何の躊躇もなく買った。
店員さんに限定品で最後の一本と言われ、ほとんど衝動的だった。
それなのに・・・・・
朝、仕事にさして行こうと思ったら、
ない・・・・
どこを探しても・・・・ない!
思いあぐねているうちに、ある真実に思い至った。
娘だ。娘が、学校にさして行ったのだ。
まだ私が一度も使っていないと言うのに
私はその夜メラメラと湧き上がる怒りを抑え、娘の帰りを待っていた
その夜に限って遅い!
あっ、今日はバイトか。
夜10時ごろ、やっと娘は帰ってきた。
「傘は?」
一応、冷静に聞いた。
傘ぐらいで怒ってるとは思われたくない。
一応、親だし・・・・。
こっちが精いっぱい親らしく取り繕っていると言うのに、娘が悪びれることもなく言った。
「バスの中に忘れてきた」
ふざけるな!
「あら、あたしのじゃなかったん?てっきり買ってくれたのかと思った」
バカ言え、お前のなんか買うものか
趣味の悪い傘を持ってるだろうが!
まだこの時は、バス会社に落とし物で保管されているはずだと思っていた。
バス会社に電話をすれば、きっと戻ってくる。
戻ってこなきゃ困る!
なのに、翌日の夕方、電話をしてみると、
「ありませんよー」
と、即答で明るく、軽く言われた。
20代ぐらいの若い男の声だ。
普通、「ちょっとお待ちください、確認します」
とかじゃないの?
何なの、この対応は?
私はこの男性に不信感を抱いた。
大事なお客様を軽く扱っていいはずがない!
娘が下りるバス停は、終点だ。
夜の10時頃。
しかも、終点まで乗っていたのは、娘一人なのだから、誰かが持ち逃げしたとは
考えられない。
終点ちょっと前にお墓があるからと言って、幽霊が傘を持って行ったと思うほど
私は幼稚ではない。
幽霊に傘などいらぬ。
晴れてても、濡れてるじゃないか。
私は、この男の失礼な態度を、人生の先輩として正さなければいけない!
とも思ったが、
どうせ相手にされないのでやめておいた。
私の要求は傘だ。
そう簡単には引き下がれない、5400円もした。
近くのスーパーの入り口付近で売ってる、焼き鳥が54本も買える。
たらふく食べれる。
私は電話じゃ、らちが明かないと思い今度はバス会社に直接行ってみることにした。
窓口に出てきたのは、またもや若い男だった。
もしや、電話の男?
声の雰囲気からして、そのようだ。
ツイてないや・・・・
私はできるだけ、丁寧に
「大事な傘なんです、探してもらえませんか?」
「記録簿にないんですから、いくら探しても見つかりませんよ」
と突き放された
何か、冷たくないか?
ロクすっぽ探しもしないで、紛れ込んだハエを追い払うような対応である。
私は、そんなひどい扱いをされていると言うのに、尚も、丁寧に聞いた。
記入漏れってことはないですか?
「ありません!ちゃんと確認してます!」
何も、怒ることないだろうが。「私の記帳ミスかもしれません、ちょっと、探してきますね」ぐらい言えないわけ?、娘が小学校の時からバス通学で利用してやっていると言うのに、どんだけバス代を払ってきたと思ってんのよ。お客様が、ないはずないと言ってるのだから、ちゃんと探すのが筋ってもんじゃないの?だいたい何なのよ、この男の対応は。社員教育がまるでなってないじゃないの。大企業で有名かもしれないけど、看板に胡坐をかいてきた企業がこれまでどれだけつぶれてきたか知ってるわけ?私も知らないわよ、悪い?だけどね、そんな企業がいつまでもぬくぬくとしていられると思ったら、大間違いだからね!そんなのおテント―様が許しゃしないんだから。そもそも、私が傘がなくて、雨に濡れて、風邪をひいて、肺炎になって、長引く入院で鬱になって、衝動的にうちのマンションの2階から飛び降りて、無様な格好で転げ落ち、それを隣近所に見られ笑いものになったら、どう責任とってくれんのよ!
正義はないのか!所長を出せー!プラカード持って座り込んでやるからなー!
などと啖呵を切らず
「すいませんでした」
と頭を下げて外に出た。
言いたいことは山ほどある。
だけど言わない・・・・・
そうやって、やり過ごしてきた。
そんな日が一日増えるだけだ。
私のような心優しい人間が報われる世の中はいつ来るんだろう。
傘は戻ってこない。
世の中は不条理にできている