昨日、懐かしい人にあった
7、8年前になるだろうか。
よく、お店に通って下さったお客様だ
彼女は、当時20代で、ちょっと硬い感じの女性だった。
キレイな顔立ちをしていたが、ギスギスに痩せていて、表情もちょっと暗かった。
最初見たときは、断食でもしてるのだろうかと思ったぐらいだ
都心にお勤めで、3カ月に一度、同僚の方と一緒に、全国百貨店共通商品券を100万ほど買いに来られていた
さすがに、すぐに店に来られても1000円券1000枚も用意できない。
人気商品は回転率も速いため、いつも在庫薄だ。
しかもこの商品券は、信販系の商品券と比べると、買取量は少ない。
当然一週間ほど、その商品券の販売を止めて買取分を溜めることになる。
通常、金券ショップは予約は受けないが、なぜかその時は受けた。
たまに気まぐれにこういうことをやる
その甲斐あって、彼女はその後3年近くも通い続けてくれた。
それが、ある日を境にぱったりと彼女からの予約の連絡は途絶えた
毎回100万以上の購入だったので、3年間トータルすると、1000万以上この商品券を買って下さったことになる。
この全国共通百貨店商品券は、当時980円(現在985円)で販売していた。
一回ごとに、2%だから、2万ほど浮いていたことになる。
1000万だと、20万だ。
いったい何に使っていたのだろう。
お店の中では、彼女のことを
「キャリアウーマンの高給取りで、ブランドを買いあさっているんですよ」などと言う者もいた。
100万も?
別の者は、「会社の経費節減じゃないですか?」
経費節減なら、まずデパートを利用しない。
私には、どっちもしっくりこなかった。
それにしても、なぜ急に来なくなったのだろう。
謎のままだった。
そして今日、その彼女が突然現れた。
最初は誰か分からなかったが、すぐに思い出した。
あごの下の浮いた小さなほくろが決め手となった。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
と声をかけた。
「え?(私が誰か)分かります?」
そりゃ覚えているだろうよ、あんな高額商品券、一回ならともかく、何回も買っていく人なんてあーたぐらいだもん。
彼女は、3歳ぐらいの男の子を連れ、その体形はずい分とふくよかになっていた。
「太ったでしょう?」
まさか、「そうね」とは言えない。
「しっかりお母さんらしくなられたんですね」でトドメテおいた。
彼女は来なくなったのは、結婚してご主人の転勤で遠地で暮らしていたからだと言った。
そして、先月から、この地で暮らすことになったので、また通って下さると言う。
また100万も買うのだろうか・・・・・と思っていると
彼女は、私の心内が読めたかのように
「もう、あの頃のようには買えませんけどね、」
私は当時の疑問を思い切って聞いてみることにした。
あの頃のギスギスした彼女には聞けなかったが、ふくよかになった彼女になら聞ける。
なぜかそう思った。
「何にご利用だったんですか?あの商品券」
彼女の会社は、都心にあり、デパートと繋がっているビル中だったらしいので、デパートで買い物をする人が多く、同僚10人分程をまとめて買いに来てたと言うことだった。
会社の近くにも金券ショップはあったらしいのだが、当店の方が0.5%安く買えるので、ちょっとばかし遠くても、足を運んで下さっていたようだ。
100万を10で割ると1人10万よね?
「ブランド品でも買ってたんですか?」
もちろんそれもあるが、全国百貨店商品券はお釣りが出るので、お弁当買ったり、小物を買ったりする度に一枚ずつ使っていたと言う。
あら、意外と地道な理由だったのね
しかも、金券で浮いた2万でみんなでカラオケやランチに行ってたらしい。
そして、彼女は一通り話し終えると、お買い物をなさった。
JCB商品券 3万円分(29550円)
イオン商品券 2万円分(19700円)
合計額面5万円分で、お支払いは49250円のお買い上げだ。
750円が彼女のお得である。
商品券の5万円は、一か月分の食費だと言う。
「ぜーんぶ商品券で払っちゃいます!」
使い慣れれば、現金とあまり変わりがない。
今日の彼女は、以前、あれほど買い占めていた全国共通商品券には、目もくれなかった。
もう、今はデパートでは買い物はしないと言う。
ブランド物にも興味がなくなったと言う。
そして、この750円は貯金箱に入れるのだとか。
「主婦のへそくりってやつです」
そう言って笑った。
思わず私もつられて笑った。
彼女ってこんなに優しい笑顔をする人だったんだね。
彼女にあの頃のような硬い表情はない。
「また、来月きます」
そう言って帰っていった。
ちょっとうれしい一日だった。