つつのんの気まぐれ日記

アラカン女子の複雑怪奇な頭の中を書いていきます。

金券ショップのお客様、話しかけても無視する女性の話

今日はなじみのお客様のSさんがいらっしゃった。

 

Sさんは、70歳?ぐらいのの気のいいご婦人である。

 

ご主人と娘さんと小学校2年生のお孫さんとご同伴だ。

 

今日は4人だったが、時々これに娘さんの夫が加わり5人でいらっしゃることもある。

 

Sさんのご主人も娘さんの夫も、腰が低く優しそうな感じのいい方である。

 

本日のご用件は、クオカード、野球のチケット、リゾートホテルの宿泊券、を売りに来てくださった。

 

クオカードは、買取93%で買取をさせていただいたが、、野球チケット、リゾートホテルの宿泊券は買取ができない。

 

そんなことはSさん、百も承知だ。

 

当店は、買取できない商品はお客様の希望に応じて委託商品としてお受けする。

 

一定の手数料を頂き、お持ちいただいた商品をお客様に代わり、店側が販売する仕組みだ。

 

慣れたもんで、Sさんはすらすらと委託申込書を書かれた。

 

Sさんの娘さんは懸賞マニアだ。

 

月に一度ほど、こうやって当たった商品を当店に売りに来られる。

 

娘さんが本来手続きをされるものであるが、いつも買うのも売るのも委託申し込みもSさんがされる。普通、親の代わりに娘が申込書を書く人は結構いるが、子供の代わりに老いた親がやることは珍しい。事実Sさんは老眼でいつも字がズレている。

 

このご家族はもう5年以上こうやって通って下さっている。

 

そして、お帰りの時には、はがきと切手を毎回100枚程を買って帰られる。

 

当店のハガキを買いに来られるお客様の中には、この懸賞にセッセと応募されているお客様が結構いる。経費はちょっとでも安いほうがいい。

 

金券ショップでは、このハガキや切手が、95%~97%で買える。1枚2、3円安でも懸賞で多くのハガキを出される方にとってはバカにならない。そう思うのは、Sさんの娘さんも例外ではない。

 

今日ちょっとだけ詳しく話したいのは、このSさんの娘さんのことである。

 

最初の頃、Sさんは、娘さんと二人でいらっしゃっていた。ピンクとか、オレンジとか明るめの服を着られるSさんに対して、娘さんはいつも黒っぽい服を着られていた。

 

髪の毛もSさんは茶髪で、娘さんは真っ黒である。

 

普通逆だろ?

 

性格も、Sさんは話し好きで陽気、一方娘さんは何となく暗い雰囲気を醸し出していた。

 

この二人ホントに親子?私じゃなくてもそう疑うと思う。

 

世の中にはちっとも似ていない親子と言うのはいるが、このチグハグ感はちょっと異様だった。

 

この娘さんは笑わなかった。どんなに私が笑いかけても笑わなかった。それは今も変わらない。それだけならいい。

 

「懸賞よく当たられてるんですね。何かコツでもあるんですか?」

 

などと話しかけても、無視された。彼女は、視線さえ合わせようとはしなかったえーん

 

どうも、私は嫌われているらしい。いくら考えても心当たりはなかったが、そう思っていた。

 

それでも、来店される度、何かと声をかけていた。私は無視されるぐらいじゃ懲りない。

 

「今日はいいお天気になりましたね。」

「今日は暑いですよね」

「この先の、○○店では今半額セールやってますよ」

「お昼から、中央広場でキャラクターショーがあるのでお嬢さん喜ぶかもしれませんよ」

などなど、ほとんどどーでもいいことばかりである。

 

ただ、相手が返事をしなくていい声掛けをした。無視されるのは格好悪かったから。

 

一年ぐらいたった頃だろうか。

 

いつも無視されている私を気の毒に思ったのだろう。

 

母親のSさんは、私にこう言った。

 

「愛想のない子でしょう?しゃべらんのですよ、あの子」

 

は?

 

いつもニコニコしているSさんがこの時ばかりは、ちょっと沈んだ表情をした。

 

Sさんが言うには、娘さんは小学校低学年の頃から突然しゃべらなくなったと言う。もともと大人しい子だったらしいが、それでも、自分の意見はちゃんと主張していたと言うから、何か学校であったのだろうとのことだった。学校にも相談したが、原因は分からずそのうち治るだろうと思って、ほっといたらしいが、友達もできず、さすがにこれではいけないと思い心療内科にも行ってみたが、変わらず今に至っていると言う。

 

思いもかけない重い話に私は、かける言葉が見つからなかったが、そばに立っているSさんの孫である幼い女の子を見て、素朴な疑問が口をついて出た。

 

「でも、結婚されてお子さんまでいらっしゃるじゃないですか」

 

娘さんとその夫はいとこ同士だと言う。小さい頃から仲よく遊んでいたので、一緒にさせたと言うことだった。結婚を機に、Sさんの住まいの敷地内に、若夫婦の家を建ててやり、そこに住まわせていると言う。

 

いとこ同士って、結婚できるんだっけ?

 

さすがに聞けないので、後で調べてみると、法律的には問題ないらしいが、遺伝子学的には望ましいとは言えないようだ。でも、大丈夫なのね。

 

この二人の子供に問題はなく、丈夫に明るく育っているようだ。

 

「お母さん(Sさん)ともお話されないんですか?」

 

ほとんど話さないが二言、三言の最低限度の日常会話はあるらしく、夫婦同士では話しているらしと言うことだった。

 

それでも、昔に比べると、ずいぶんよくなったと言う。しかも、Sさんが出かける時は、ほとんど一緒に外出されるとのことで、今では、気に病むことも少なくなったと言う。

 

いつも一緒にいるのだから、親子の絆はあるのだろう。むしろしっかりと。

 

本当なら、娘さんもSさんのように明るい服を着て、ケタケタ笑う陽気な女性だったかもしれないな。

 

小学校の時にいったいどんなことがあったかなど想像もつかないが、幼い頃のある出来事が、こんなにも長く一人の人間にに影響し続けることに、私は心底驚いた。

 

「くよくよ悩んでも仕方ないしね」

 

Sさんの言葉は、達観したようにも、あきらめたようにも聞こえる。

 

私のいる金券ショップは、ショッピングセンターの中にある。通りを歩く人は、皆明るい表情をして、ショッピングを楽しんでいる。

 

でも、そんな中にもSさん家族のように、いろいろな事情を抱え、暮らしている人たちもいるんだろうね。

 

Sさんの娘さんは、年の頃は30代後半、小学校低学年の頃からしゃべらなくなったと言うことだから、もう30年も彼女は人と話すことを避けてきたことになる。

 

いつしか人は、そんな状況にも慣れてしまうほど柔軟な生き物なのだろうか。

 

それでもいつかは、彼女にもしゃべらなくてはいけない日が来るだろう。

 

彼女にもし変化を促すことができる人物がいるとしたら、それはいま彼女の横で無邪気に笑う女の子だろう。

 

親は、子供によって強くなるものだ。

 

私は今日もSさんの娘さんに話しかけた。

 

「今日は、雨が上がってよかったですね」

 

もっとマシなことが言えないのかよ!と、思ったが、

 

それでも彼女は最近、かすかにうなずくだけはしてくれるようになった。

 

もちろん、視線は合わせてはくれないが・・・・・。

 

いつか彼女の声が聞ける日が来るだろうか・・・・・・・・。

 

私が彼女に話しかける理由は、同情なんかじゃない。ましてや哀れみからでもない。

 

彼女へのエール・・・・なんて言ったら・・・・

 

ちょっと、格好つけすぎだろうかニヒヒ