今更だけど・・・・・
24時間テレビ見ました?
私はこの日は仕事で昼間は見れなかったので、見たのは夜と朝だけ。弱いのよねーこういう番組。ちょっと見るだけでも涙腺がゆるゆるになる。
根が単純だからね。
それに比べ我が娘、テレビを見て、涙ぐむ私に白けた顔でこう言った。
「こんなの偽善だからね。弱い人達をテレビに晒して何が面白いん?ちゃっかりテレビ局は儲かってるんよ。友達もみんな言ってる、24時間テレビ嫌いだって!」
その時、テレビは、余命いくばくもないママが幼い子供と最後の時間を過ごしている場面だ。
「(見るの)邪魔せんといて!」
「おかーさんみたいな年寄りぐらいだからね、こんな作り物で泣くのは。」
年寄りは取り消せ!まだまだ50代だ。
「障がい者の人達のほとんどが24時間テレビを好きか嫌いかのアンケートで、嫌いだと答えてるんだからね!」
コイツ、何1人で怒ってんだ?
「あんた(TVを)見ないんだったら、自分の部屋に行ってくんない?ジャマ!」
私がそう言うと、娘は嵐を見てるんだと言う。
オメー、言ってることと、やってることが違うだろうが!私に似たのか?
まあ、娘の言い分も一理ある。
この番組に対する世間の批判は多い。
チャリティーという善意の裏で、「寄付とは別の大きなお金が動いている」というのがその理由だろう。
出演者の高額なギャラ、テレビ局の膨大なCM収入。それは、寄付をはるかに上回る額だ。「愛は地球を救う」を前面に打ち出しながら、ちゃっかり儲かっている者たちがいると言う事実は、まるで真水に落とされた一滴の墨のようだ。コップの水が濁って見えても仕方がないのかもしれない。
それでも、私は人が何かに挑戦したり、頑張っている姿は美しいと思う。私が見たいのは困難に立ち向かう強さだ。
別に、「何てかわいそうな人達なの!」
そんな同情心で見ているわけではない。
そんなこと、テレビの中のチャレンジャーたちは誰も望んではいないと思う。絶対に!
私がそう思うのには、理由がある。
私は十数年前、ある一人の障がい者の女性に出会った。Oさんだ。
私はその頃、従業員40人ほどの小さな服飾メーカーで働いていた。メーカーと言っても、作るのは下請けにやらせ、会社はデザインと各店舗への卸が主な仕事である。
Oさんは、地元の国立大を卒業し、私と同じ会社に入社してきた。
18才の時事故に遭い、脊髄を損傷し車椅子生活になっていた。
彼女が入社した時の年齢が25歳、ずいぶん遅れた就職だ。ここに来るまでにもたくさんの苦労をしてきたんだと思う。
私は、顧客担当であったが、なぜかパソコンの仕事をする彼女の指導係に任命された。名誉のために言っておくが、別に私が暇だった訳ではない。彼女は社員として入ってきたので、商品知識から覚え込ませる必要があった。それで、商品や顧客情報に詳しい私が当てがわれたのだ。
パソコンで名簿や顧客リスト、伝票などを打ち込んでいくのがOさんの仕事だった。彼女は一通りのパソコンの技術と知識を身につけていた。指の動きに軽やかさはなかったものの、一定のスピードを保ち、文字と数字が入力されていく。うまいもんだ、多分手首を器用に動かしてたんだと思う。
お昼にお弁当を食べる時、文字を書くとき、彼女のモノを握る指の形は、幼い子供のようにちょっといびつだった。彼女の指は完全ではなかったみたいだ。私は、彼女が指をまっすぐに伸ばしているところを見たことがない。彼女の指は、何もしていない時もパソコンを打つ時のように折れ曲がっていた。
彼女は、自分の意見をキッパリと言う強い女性だった。通常卒業したての新入社員というものは、最初多少なりとも猫を被るものではあるが、彼女にそんな気配はなく、一見快活で自信家のように見えた。
今時の若い女性のように、よく笑い、そして上司の悪口もよく言った。社長と経理課長がハゲており、それをネタによくブラックジョークをかましていた。これって、よくある会社の風景だよね。
そんなある日の昼休みのこと、彼女がこんなことを言った。
「私がいることによって、会社は補助金を国からもらってるんですよ」
Oさんの言葉にはトゲがあった。
私はその時、別の同僚とご飯を食べていたが、偶然聞こえてきたその言葉は、あまり気分のいいものではなかった。
会社は、彼女を迎えるにあたり、トイレの改装そして、事務所から倉庫まで、彼女が移動するのに困らないよう、全ての段差をなくす大掛かりな工事をやっていた。それなりの費用がかかっているはずだ。もちろん、法的に障がい者雇用をする場合は、設備を整える義務があったのだろうが。
確かに社長はケチだったが、補助金欲しさに、彼女を雇ったとは考えにくい。しかも、従業員40人程度の中小企業は障がい者雇用義務の対象とはならないはずだと思うが‥‥。
0さんはパソコンを打つ手を止めてよくボーっとしていた。疲れやすかったのだろうか。それが障害によるものかどうかは分からない。
毎日、彼女と接する私は、日頃の何気ない言動から感じていたことがある。
彼女はこの会社を嫌ってる?
と言うより、不満がたくさんある?
そりゃあ、彼女でなくても不満はある。この会社大好き!なんて言う人がいたら、
「コラ、目を覚ませ!」と言って小突くかもしれない。
彼女の場合、それがコトサラ大きかったような印象を受けた。
確かにこの場所は一流大学出の彼女の就職先にはふさわしくない。こんな小さな会社で働くことは、彼女の意に添わなかったのかもしれない。
私が感じていたことを会社が同じように感じ取っていたかどうかは分からないが、
その2年後に彼女は、会社から解雇を言い渡された。会社の業績が急激に落ちたのがそのその理由だとは聞いたが・・・・・でも、何で彼女が?
解雇から最も遠いはずだと思っていたので、彼女の名前が出たときはみんなびっくりした。もちろん、当人が一番びっくりしただろう。
もしも彼女が会社の中で、弱者のふりをしていたら、彼女は首になったのだろうか。私はふとそんなことを思った。彼女は大きな障害を抱えているにもかかわらず、その気丈な性格からだろうか。人の同情を買うタイプではなかった。
女性の解雇者は数人いたが、いつだって切り捨てられるのは弱者だ。しかも半年後に会社側は新しい人員を補充している。会社というところは時々不可解なことが起こる。
何のための解雇だったのだ?
彼女が去る日、仕事上関連の深かった5人でひっそりと送別会を開いた。
居酒屋で、たらふく食べて飲み、次にカラオケで思い切り歌いそこでも飲んだ。0さんはずっと笑っていた。でも、いつになく言葉は少なかった。最後に酔いを醒まそうと、ファミレスに立ち寄った。
最初は、どうでもいい世間話をしていたが、Oさんがポツリと言った。
「私のように体の不自由な人間にとって、一番嫌なことって何だと思いますか?」
皆、一様にびっくりした。彼女が自分の障害について話すことは、初めてだったから…‥
もちろん、この2年間私達からもその話に触れたことはない。
「お風呂に入るのが大変とか?それともトイレ?」
私の隣に座っていたKさんがOさんの質問に答えるように言った。
だいたい、5人もいれば、こんなトンチンカンな答えを言う者がいる。
そんな日常的なことではないはずだ。
彼女にとっての一番嫌なことは、私にも分からなかった。だって一番だよ?分かるはずがない。
彼女は首を横に振った。そしてこう話した。
彼女は事故に遭ってからというもの、周りの人間が必要以上に気を使ったと言う。親はもちろんのこと、友人や初めて会った人まで。自分はこんなにもかわいそうな目にあったのだから、それが当たり前だとも思っていたと。でも、しばらくすると段々それが苦痛になってきたらしい。
「不自由なことはいっぱいありますよ。Kさんが言ったように、お風呂もトイレも着替えも、どこかに行くのも・・・・。でもこんなのは時間をかければ、できるんですよね。でも、見た目だけで、不幸だと思われたり、かわいそうだと思われるのが、一番つらいかな・・・・・・・・なんちゃって」
最後の「なんちゃって」は今も耳に残っている。もちろん、一番つらい理由も。
入社してからずーっと必要以上に気丈に振舞っていたのはそう言うことだったんだね。
これまでの彼女の言動がストンと腑に落ちた。
2年も一緒にいたのに、本当のOさんを垣間見たのはこれが最初で最後だ。
Oさんは、ありがとうの言葉を残して去っていった。
彼女のようにハンディーを持つ人たちが虚勢を張らずに生きていける社会。
障がい者と健常者の垣根のない社会。
そんな社会はいつか来るのだろうか。
差しのべる手は、義務であってはいけない。憐れみであってもいけない。
難しいね。
24時間テレビは、これからも続いていくだろう。
だが、そこで見る美談はハンディーを持つ彼女達の日常とは程遠い。
それでも、彼女達は与えられた日常を過ごしていく。