昨年の末に、一通の書留郵便が届いた。
私宛じゃなく、娘宛だ。
地元の銀行の名前が入っており、表には、JCBと大きく書いてあった。
怪しい・・・・
ちょっと、気にはなったが、まさかいくら親と言えども勝手に開けるわけにはいかない。とりあえず娘の机の上に置いておいた。
今日、娘の部屋に洗濯物を持って行くと、その封筒を見つけた。まだ開封もされていない。届いてから10日以上も経つのに、いまだ机の上にほったらかしだ。
「ねえ、この封筒何?」
私は、封筒を指さして言ってみた。さすがにカード会社の名前が入っているだけに気になった。
まさか、クレジットカードを作った?
娘は、19歳である。クレジットカードを作るには、親の承諾がいるはずだ。承諾などしていない。するつもりもない。学生の身分で、クレジットカードなど早すぎる。
最近は、比較的審査基準が簡単な学生カード(大学生、専門学校生が利用できる)なども発行されており、早い段階で、カードを利用する子供もいる。
娘は、心当たりがないらしく、特に臆することなくその封筒を私の目の前で開封してみた。
案の定、カードだ。
だが、クレジットカードではない。デビットカードである。
「なんで、デビットカード作ったん?」私は言った。
「何、デビットカードって?」
おまえ、分からずに作ってんのかよ。
詳しく話を聞くと、娘は、新しく始めたアルバイト先に合わせ、指定された銀行に口座の開設に行ったという。そこで、何やらカードの説明を受けたらしい。ATMにいかなくていいだの、預金内のお金で買い物ができるからリスクがないとか、学生の方に人気だとか、やたらとしつこく言われたらしく、何となく作らなきゃいけないのかな、と思い無料だと言われ、深く考えずに作ったと言う。(無料は初年度だけ、次からは1350円かかる)
たぶん銀行さんなので、きちんと説明をされたうえで、カードは発行されたのだとは思う。
ただ、銀行に口座開設に行っただけの19歳の娘にデビットカードを勧め、いとも簡単に発行されるこの仕組みに、私はちょっと驚いた。
普通、勧める?学生に?しかも熱心に・・・・。
銀行女子行員さんにもノルマがあるの?
もしそうなら、尚更、カード知識がまるでない小娘をカモにするのはやめて欲しい。
確かに、デビットカードは、クレジットカードと違い安全だと言われている。
ここでちょっとクレジットカードとデビットカードの違いを簡単に比べてみたいと思う。
まず、発行しているのはどこ?
クレジットカードを発行しているのはクレジット会社であるが、デビットカードは銀行が発行している。だが、いくら銀行が発行していようが、そのカードが使える店舗はクレジット会社の加盟店である。
うちの娘のカードのようにJCBという国際ブランドがついているデビットカードはほとんどクレジットカードと同じお店で使える。
デビットカードは、ポイント率に魅力がないと言われているが、実際に説明書を読んでみると、ポイントは200円に1ポイントだからクレジットカードとほぼ変わらない。
なかなか優れているではないか。感心している場合ではない!
それでは、クレジットカードとデビットカードの最大の違いは何だろう。
それは、支払いの時の口座引き落としのスピードの違いだろう。
クレジットカードが1,2か月後の後払いに対して、デビットカードは即時決済である。現金払いとほぼ一緒だ。
商品の支払いで、カードを差しだし、カード機に通した時点で、即座に銀行口座から引き落とされる。
使える金額も、口座の残高の金額まで。しかも、一切の分割払いやリボ払いもキャッシングもできない。全て一回払いだ。
確かに、後先考えずに買い物をしてしまう人にとってはいいかもしれない。預金を使うだけなのだから、少なくともマイナス残高になることはない。但し、翌月の支払いに慌てふためくことはないが、お金の使い方に計画性ががないといつも預金がスッカラカンなんてことはあるだろう。
「現金と同じ感覚で残高が分かりやすいデビットカード」
これは、デピットカードを勧める時の売り文句である。
でもね、通販でモノ買った時はどうなるんだ?
もちろんクレジットなら後払い、現金払いでも、後から振込用紙が送ってくるので基本後払いだ。でもデビットカードは注文時点で口座から現金が減るので、前払いってことになる。輸送に時間かかるから、商品受け取るのはその後だもんね。これだと、初めて注文するお店だと、ちょっと心配。
しかも、商品の購入をキャンセルしたらどうなる?
クレジットだと請求そのものがされなくなるものだけど、デビットカードはどうしても注文時点で口座から現金が減る。最終的には返金されるのだろうけど、やはり返金までに一定期間を要する。返金まで、今か今かと待ち続けるのは結構ストレスだ。金額が大きければ、気が気じゃない。
いくら分かりやすい即時払いと言っても、デメリットはある。
それともう一つの大きな違い、デビットカードは15歳以上の高校生から発行できる。親の承認が必要ないため、子供が勝手に作ることができる。
知らない間に、お子さんがいつの間にかよく分からずにデビットカードを作っていた!
なんてこともあるかも。
もちろん、デビットカードは高校生が作れるくらいだから、クレジットカードのように厳しい審査はない。収入があろうがなかろうが関係ない。まあ、自分が持ってるお金を使うんだから人にとやかく言われる筋合いはないんだろうけど。
無審査だから、基本年齢さえクリアしていれば誰でも作れるのがデビットカードだ。むしろ、クレジットカードの信用調査で審査落ちした人なども簡単に作れるのが最大のメリット?だろう。
それをメリットと呼ぶかどうかは人それぞれだと思うが、個人的にはクレジットで、審査落ちした人は現金でしっかり払って、お金の重みをしっかりと感じた方がいいと思うのだけど・・・・・・。
世の中はそうはなっていないようだ。
クレジットがダメならデビットカードで!
高校生でもカードが持てる!
何と手厚いカード発行の仕組み!
これってどうよ?
もともと、日本は治安のいい国である。現金ひったくりの被害がないとは言えないが、私としては、カードが不正に利用されることの方が怖い。
もちろん、デビットカードにしろ、クレジットカードにしろ紛失保険、盗難保険と言うのは確かについている。でもね、皆さんのお財布の中もそうだと思うんだけど、たくさんのカードが入ってやしない?
毎日、取り出して無くなっていないかなんて確認したりはしない。
まあ、自分はともかく・・・・・
これが娘のこととなると、ちょっと心配なんだよね。
そのへんのポイントカードと同じ感覚で持たれたら、たまったもんじゃない。
とりあえず私は、娘に伝えた。
デビットカードは、不正に利用されると預金全部を失う可能性があるため、厳重に管理すること!
もし、無いことに気づいたらすぐにカード会社の紛失窓口に届けること。そのために、その窓口の電話番号を手帳に控えさせた。
もちろん、そのカードの番号自体も控えさせた。(カードを無くせば、カード番号そのものも分からなくなるからだ)
それから、警察にすぐに届け出ること。これは、盗難補償を受けるための必須条件である。
しかも補償期間は60日と期限がある。
確かにカードは便利である。だがその裏に潜む危険性についてもしっかりと知っておく必要があるのだ。
お金の使い方と言うのは、学校では教えてくれない。もちろんクレジットカードやデビットカードの使い方など実際に使うまでは知る機会などないだろう。
どう考えても、銀行さんが娘にデビットカードを勧めるにあたって、リスクをちゃんと話したか疑わしい。
あまりにも、カードの便利さだけが独り歩きしているような気がする。
それならば、親が子供に伝えるしかない。
いづれ、娘もデビットカードではなくクレジットカードを使うようになるだろう。クレジットになると、リボ払いにキャッシングなどの甘い罠もある。
そういうものに安易に頼らないお金の使い方を身につけて欲しいものだ。
その前段階として、デビットカードはカードの使い方を学ぶのにはいいのかもしれない。
と言っても、さすがに今回は私がたまたま郵便物を受け取ったからよかったものの、やはり、未成年の子供にカードを発行するなら、デビットカードと言えども親の許可を求めて欲しいと思う。
あまりにも簡単に発行されてしまうこのデビットカード。
カード社会は、着実に進んでいる。
時代遅れの親と言われようが、私はやっぱり、カード発行は責任のとれる社会人になってからにして欲しいと思う。
私が、散々カードを持つことのリスクを娘に説明した後・・・・
娘は、デビットカードをまじまじと見つめ、そっと自分の財布に入れ込んだ。
親としては、しばらくは見守る必要があるかもしれない。
19歳にもなる娘にちょっと過保護すぎるのだろうか・・・・?
と、思わないわけではないが、私は過保護のダサい親に徹しようと思っている。