奴らがいない。
どこを探してもいないのだ。
確か、夏に強いんじゃなかったか?
奴らとは、ゴキブリのことである。
確か、我が家では、6月あたりからゴキブリが出没している。最初見つけた時、また今年もやってきたか!あきらめの気持ちが強かった。
とはいうものの、・・・・
暗がりのキッチンに突然お出ましになる黒い物体・・・・
私ぐらいの年になると、ゴキブリぐらいで驚くこともくなくなるが、当然、そのお姿はやはり気持ち悪い。
だがこのゴキブリが、翌朝になると何故か仰向けになって足はちぎられ、悲惨な姿になっている日が続いた。毎夜ご丁寧に一匹づつ。
犯人にすぐに思い至った。こんな事しでかすのはアイツしかいない。
我が家では、4月から新しく家族が増えた。動物管理センターからもらってきた猫。
1歳になったばかりの血気盛んな雄である。
6月のある夜、キッチンの物音に目が覚めてキッチンを除いてみると、暗がりの中、キッチン台にのぼりジット気配を伺っているニャンの姿があった。眼がランランと輝いている。これはこれで不気味である。
ゴキブリのように、素早く動く獲物は、ニャンにとっておもちゃに勝る恰好の遊び相手なのだ。しかも最後までとどめを刺さず時間をかけてしつこくいたぶる。しかも死んだあとさえ、自分で転がして遊ぶ。残酷極まりない扱いだ。これなら、殺虫剤かなんかで一気に逝かしてやった方が、ゴキブリにとっては幸せではないか?そう思ったりもするが、夜中にやるので止めることもできない。
しかもその悪行をやった後、あたしの横にべったりとくっついてスヤスヤと寝てんだよね。
かわいいんだけど、ゴキブリちぎられている羽見ると、さすがに気持ちが冷めるわ。
その足で、ちぎったんだよな・・・・・・まさかお前、食ってねーよな?
こんな日が続いた6月であったが、7月中旬ぐらいになるとピタリとゴキブリを見なくなった。そして、今に至る。
まさか、ゴキブリが猫に恐れをなして逃げていった?毎夜転がる仲間の死骸を見て、奴らははこの家は危ないとでも思ったのか?
まさかね、にわかには信じがたい。
私は、ゴキブリは学習能力の高い生き物だと思っている。毎年あちこちに置くごきぶりホイホイ、これが、効くのは、最初の2、3週間だけなのよ。後は見事なぐらい、よけて通るようになる。仲間内で注意報の回覧板でも回しているのか?
そうじゃなきゃ、粘着力が弱くなって、入っても逃げてるとか?
敵ながら、そのしぶとい生命への執着はあっぱれだ。
昨日友達に電話した時ついでに聞いてみた。
「ゴキブリって今年出る?」
「ウチ、昔っから全然出ないよ」と、築30年の木造一戸建てに住む友が言う。
「うっそでしょ!」
この友達、掃除嫌いである。ゴキブリって必ずしも掃除と比例するもんじゃないんだな。
などと、私は一つの真理を導き出した気分になったが、その後、友は言った。
「それより、うちは蜘蛛がいっぱいいるんだよね、家の中に蜘蛛の巣張るんだよね」
これは、これである意味不気味だ。
子供の頃、母が大蜘蛛を見ると喜んだ。何となく蜘蛛を縁起のいいものと思っていた節がある。
蜘蛛は、害虫を食べてくれる益虫だ。ゴキブリのように病原菌の媒介やアレルギーの原因になることもない。害虫を食べるにもかかわらず人間に一切の害を及ぼさない。
蜘蛛は、ゴキブリの卵を食べるというからまさにゴキブリにとっては天敵だ。
生存本能の強いゴキブリにとっては、まさに蜘蛛の住みつく家は共存しにくい場所ではあるんだろうね。
だが、うちにいるのは蜘蛛ではなく猫である。
猫のおかげで、ゴキブリが逃げた?
そんなバカな。
猫を恐れるのは、昔からネズミだろうが・・・・だが、もう一か月近く一匹たりとも奴らの姿を見ない。
不思議に思っていた矢先、
先日新聞でこんな記事を読んだ。
夏に強いはずの蚊やセミが熱中症気味で不活動になっているというのだ。蚊は35度を超えると飛ばなくなり、セミは、寿命を待たずに死んでしまうのだそうだ。しかもしぶといゴキブリさえ、30度を超えると危険な状態になり、40度になると死に至るらしい。
何か信じられない話だけど・・・・・これを裏付ける心当たりがある。
8月になって、セミやカメムシがベランダに迷い込んできたのだけど、動作が鈍い。逃がしてやろうと、つついても逃げないのだね。明らかに弱っている。こんなのを目のあたりにしていると、やはり今年の夏は、虫たちに取って生きやすい環境ではないようだ。
だが、うちのお隣に住んでいる奥さんに聞いてみると、
「えーゴキブリ出ないの?何やった?教えて、教えて!」
教えてもなにも、何も教えることなどない。突然奴らは消えたのだから。
いたらいたで、目障りであるが、いなくなったらいなくなったで気にはなる。
そもそも、奴らが出現したのは、想像もつかないほどはるか昔だ、一説では3億年前とか。日本に至っては、4300年前の縄文土器時代と言われている。
古代から絶滅しないで生き残ってきたわけだから、しぶといはずだよね。
もともとゴキブリがこうやって生き延びてきた背景には、奴らが雑食だからと言うのもあるだろう。奴らは、水一滴で3日、油一滴で5日生きれるらしい。その一方で、グルメ?の一面もある。空き缶に残ったジュースやビールや食べ残しのお菓子にペットフード、排水口の髪の毛から、自分たちのフンや、はたまた共食いまでするのだから。人間が飢えても奴らが飢えることは絶対にない。
しかも家の中で見かけるのは、大概オスか子供なんだって。成虫のメスは出不精らしくじっと暗がりの中で息を潜めているという。だから、たまたま遭遇したオスや子供を退治したところで、ゴキブリが減ることはない。
一方で、メスが人間の目の届かないところでちゃっかり産卵してるってわけよ。
多くの家庭で、今年こそはとバルサンやったり、ホウ酸団子置いたり、ゴキジェットまいたりするけど、肝心の卵にには、ほとんどの殺虫剤は効かないんだよね。だってゴキブリの卵って、卵鞘(らんしょう)っていう特別な殻に守られているんだよ。そもそも、この卵見つけるのさえ難しいんだわ。この卵に手を付けなきゃどうにもならんと思うのだけど。これが、難しいんだね。
私もずいぶんトライしたよ。全部失敗したけど。
それが、全くいなくなったのだから、あら、不思議。
奴らはいったいどこに行ったのだろう?
あれだけ悩ましといて、お世話になりましたの置手紙もない。
んなわけあるかい!それにしてもミステリーだわ。
猫か酷暑か?
やっぱり酷暑のせいかしらね・・・・・・・?
もうすぐに秋の到来だ。それと共に、奴らも戻ってくるんだろうか・・・・
ゴキブリを待ってるのは、コイツだけだわ
追記(令和元年7月17日)
ゴキが消えてまた夏がやってきたが、あれから我が家には一匹たりともゴキは出ていない。やっぱり、我が家に来たニャンのおかげだったのではないかと思っている。
でもね、不思議なことに猫は以前も飼ってったんだよね。その時はゴキは出ていたんだよ。
もともとゴキが最初に出たのは、5年程前で、現在築20年の我が家が15年を経過した辺りからだ。その頃、前の猫はもう高齢だったから、ゴキがそばを通っても我関せずで全く攻撃しなかった。
てことは・・・・・・??
猫は猫でも今のニャンみたいに若くて残酷で非情なハンターのような猫だと、ゴキブリは恐れるってことなのかな。
いづれにしても、我が家からすっかりゴキブリはいなくなった。バンザーイ
でかした!ニャン